草原の実験

 

2014年のロシアの作品です。

 

草原の実験 【プレミアム版】 [DVD]

 

ざっくしあらすじ

だだっ広い何もない草原に暮らす父と娘の2人の親子。その娘に好意を抱く2人の青年との交流や、ゆったりと流れる時間に身を任せながらの穏やかな暮らしが永遠に続くと思っていた。

 

セリフが一言もない作品でしたが、それが物凄い効果を発揮していたように感じられます。言葉は必要だけれど、時に不要なものなんだなと痛感しました。探せばすぐ知りたい情報が得られる昨今において、あえて言葉という重要なアイテムを排除し映像だけで訴えるという手法は中々な挑戦だったのではないでしょうか。

 

言葉がないので映像勝負になるのですが、素晴らしいカメラワークと光、色、表情、演出。完璧だと私は思いました。娘に恋するロシア人の青年が夜、ライターの光だけを頼りに帰ってゆくシーンがあるのですが、そのライターの光が鳥に変わるあのシーンがとにかく美しい!火の鳥みたいでお気に入りのシーンです。あと、娘役のエレーナ・アンが可愛い。とにかく可愛い、好き。漫画『ゴールデンカムイ』のアシリパさんの役をキャスティングするならこの時期のエレーナ・アン以外いないと思います。素敵。『ゴールデンカムイ』ご存知ないようでしたら是非一読を、面白いです。

 

鑑賞後にググって知ったのですがこの作品、元ネタがあったんですね。旧ソビエト連邦カザフ共和国(現在はカザフスタン)にあったセミパラチンスク核実験場で1949年~1989年の間に行われていた核実験を基に作られた作品とのことで大変驚きました。まさかこんな非情な実験が行われていたとは…。恥ずかしながら私はこのセミパラチンスクでの実験を知らなかったので「よく作られた話だなぁ、怖いよぉ。」と呑気に鑑賞していました。無知ですなぁ。

 

実験は40年間、回数にして456回の核実験が行われ、今現在も被爆が続いています。多大な健康被害を出したこの非人道的な実験で放出された放射性物質はあのチェルノブイリの5000倍とも言われており、周辺に住んでいた住民たちには一切この実験の事は知らされていなかったとのことです。1945年8月6日、9日があったことを見て見ぬふりが出来る、人間ってやっぱり愚かですよね。

 

この作品の衝撃度合いとして思い出させるのが、1968年のアニメーション映画「風が吹くとき」です。この作品も核がテーマになっており、可愛らしい絵柄(原作者は「スノーマン」を書いたレイモンド・ブリッグズ氏)からは想像もつかない程の鬱展開になるので簡単に手を出してはいけないと言われるほどのトラウマ作品です。今回取り上げた「草原の実験」も感覚的にはこの「風が吹くとき」に似ているなと私は感じたので、鑑賞する際は十分に腹を括って下さい。エンドロールは半数の方が放心状態になることでしょう。罪のない純朴な人達に行ったこの残酷な実験を風化させない、忘れさせない、伝えていく、そんな想いも込められた作品なのではないでしょうか。