EO

2022年ポーランド・イタリア製作の作品です。

 

 

 

 

 

ざっくしあらすじ

EOはカサンドラと共にサーカス団で活躍していた灰色のロバ。しかし、動物愛護団体によりサーカス団から引き離されることに!EOは思いもよらぬ放浪の旅へと歩みを進めることになります。

 

監督は『アンナと過ごした4日間』『エッセンシャル・キリング』等を手がけたイエジー・スコリモフスキ。ほんの数分だけですが、イザベル・ユペール氏も出ています。

 

なんてったって今年はロバの年ですよ!『イニシェリン島の精霊』でもロバが活躍していましたし、『小さき麦の花』でもロバがいい味を出していましたよね。いいですよね、ロバ。私はロバ大好きです、馬も牛も鳥も犬も猫も大好きですが、ロバも好きです。別名「ウサギウマ」っていうのもたまらないです。誰?「ウサギウマ」なんて可愛い呼び名考えた人、素敵!

 

今作の主役EO役には6頭のロバが出演しています。タコ、マリエッタ、オラ、ロッコ、メラ、エットーレ。この6頭でEOを演じ、撮影の際にはロバたちの得意不得意を考慮し、上手く演じ分けて撮影したそうです。この作品で初めて知ったのですが、ロバは非常に絆の強い生き物で、A地点からB地点へ移動するショットが必要な際には、先にパートナーのロバを歩かせ、それについていくEO役のロバを撮ったとの事。情深いのは作品の中だけの設定かと思っていたので、ますますロバが好きになりました。いとおしい。

 

今作は『バルタザールどこへ行く』にインスピレーションを受けて作られた作品なので、本当に本当に動物を愛してやまない人には堪えるものがあると思います。しかし、そんな人にこそこの作品は必要であると私は思います。本当にその動物愛護は「愛護」なのか?「愛護」している自分が可愛いのでは?この問いかけが鑑賞後もずっとつきまとってきます。

 

個人的な話で恐縮ですが、ここで身内の話を。私の両親はやたら動物を購入してきます。文字通り「購入」です。あと、懲りない。見るからに手に余しているのに、彼らは「購入」してくるのです。理由は「可愛いから」典型的な身勝手な人間の動物に対する考え方です。犠牲になったのは鳥とウサギ。元々母は掃除や整理整頓が大の苦手で、はっきり言うとだらしない人。父も率先して世話をするような人物ではありません。そんな人間が動物の世話など出来るはずがなく、案の定動物たちが死んだ際に両親がとった行動は、亡骸を生ゴミと一緒に捨てることでした。そして驚いたことに、その行動に対して、彼らは何の負い目も羞恥心も感じていませんでした。平気でベラリと言ってのけたのです。自分の親ですがこの話を聞いたときは流石に軽蔑しました。今思い出しても気色悪い人間どもだなと思ってしまいます。もし、この世の秩序が乱れ、世紀末のような世界になったら、この両親は自分の親や子供でも平気で生ゴミと一緒に捨てることでしょう。二度と動物は購入するなと言ってもこのような質の悪い人間は聞く耳を持ちません。今、両親の家には新たに猫と鳥が購入されました。両親の家に行ったことがないので猫と鳥がどんな環境で過ごしているのか全く分かりません。次は必ず埋葬してほしいと話はしましたが、果たして…。

 

EOを観て真っ先に思い出したのがこの両親と動物たちの事でした。そして、私だって結局はただの傍観者で偽善者です。作中でいうならカサンドラが自分と重なります。サーカス団から離され、保護されたロバ牧場にいるEOにわざわざカサンドラは会いに行くのですが、私はこのカサンドラの行動に腹立たしさを感じました。カサンドラはEOに対して暴力をふるったり、バカにしたりは一切しません。しないけれど、カサンドラにとっての最後のひと撫ではEOにとって呪縛になってしまったように見えたのです。『EOは可愛い、けど私にはどうしようもないし良さそうな牧場に引き取られたみたいだから最後にひと撫でしましょう。』この様子がやけに腹立たしく、そして妙に自分と重なる気がして胸のムカつきを感じずにはいられなかったです。結局、お前だって薄情な人間どもと一緒なんだぞと突きつけられたシーンでした。

 

EOを取り巻く環境は危険の連続で、とあるシーンでは『サウルの息子』のネメシュ・ラースローが撮った短編『少しの我慢』を彷彿とさせるような演出があるなど、非常に攻めた映像の数々で85歳の巨匠が撮ったとは思えない若々しさがありました。音楽も非常に重要で、しゃべることのできないEOの言葉の代わりになっていたように感じます。

 

鑑賞後もこんなに考えさせられる作品は久々です。ずっとEOの事を考えています。今では私の隣に《イマジナリーEO》がいるくらいEOの事を考えています。自分以外の生き物の考えていることなんて分かりっこないけれど、分からないなりに危害を加えず正しい距離感で接していきたい。それしかできないのです。