フルメタルジャケット

1987年にアメリカで公開された戦争映画。

戦争映画で一番大好きな作品です。

 

フルメタル・ジャケット (字幕版)

 

ざっくしあらすじ

ベトナム戦争時、海兵隊に志願した青年たちは海兵隊訓練キャンプで厳しい訓練を受けることになります。そこで鬼教官ハートマン先任軍曹の人種差別バリバリな罵声、異常なまでの体罰などを駆使した「教育」で訓練生たちをしごいてしごいてしごきまくります!そんなキャンプの中では、落ちこぼれな訓練生へのいじめなどもあり、かなり閉鎖的な空間の中で訓練生たちは心身をすり減らします。その中でも落ちこぼれのレナードこと微笑みデブは、いじめられながらもジョーカーたちのサポートを得て、最終的にはハートマン先任軍曹から射撃の才能を認められるまでに成長したものの、既に微笑みデブの精神は崩壊しており、キャンプ最終日の暗いトイレでハートマン先任軍曹を射殺し自分もその銃で自ら命を絶ちます。そんな波乱な幕開けでベトナムへ送られた訓練生たちは、さらに過酷な戦場へ足を踏み入れることになります。

 

監督は「無冠の帝王」でも有名なスタンリー・キューブリックです。アメリカ出身ですが後にイギリスへ移住したため、この作品は全編ロンドンで撮影されています。なぜ、ベトナムでのロケを行わなかったかというと、プロ―モーションなどで飛行機移動が必要な場所へは行かなかったほど飛行機が苦手なので、ロンドン近辺の工場跡に、輸入してきたヤシを植えて撮影を行いました。

主なキャストは、ジェイムズことジョーカー役にマシュー・モディーン、レナードこと微笑みデブ役にヴィンセント・ドノフリオ、鬼教官ハートマン先任軍曹にR・リー・アーメイが出演しています。

 

前半が訓練所、後半が戦場という2部構成で撮られており、前半はややコメディタッチなのですが、話が進むにつれて徐々に狂気に満ちていく様が下手なホラーよりよっぽど怖く感じます。特に微笑みデブを演じたヴィンセントの演技は卓越しており、締まりのない顔でジェリー付きドーナッツを食べていた前半とは比べ物にならない変化を見事に演じています。これに併せて、いかに戦争が人を狂わせるものかということも強烈に映し出されていました。

 

強烈といえば、リー・アーメイのハートマン先任軍曹もドンピシャなハマり役でしたね。彼は元々海兵隊に所属していた正真正銘の軍人だったため、罵詈雑言はお手の物だったようで、当初彼は演技指導で呼ばれていたもののあまりに迫力があったため急遽キャスティングされたのは有名な話です。そんなリー・アーメイですが、2018年4月にお亡くなりになられたそうです。

 

戦争映画にありがちな血生臭く、男臭い感じがほぼなく、戦場という緊迫した状況の中、なんだか頭も顔もユルい緊張感皆無の兵士たちが逆にリアルに映り、この作品を観た後に他の戦争映画を観るとなんだか胡散臭く見えてしまいました。つい最近観た「ハーツアンドマインズ」というベトナム戦争のドキュメンタリーを観ると尚更兵士たちの感じがリアルに思えます。

 

ゲームのように人を殺せるから最高に楽しかった旨を、後に除隊した元ベトナム戦争兵がドキュメンタリーで語っていましたが、フルメタルジャケットではそんな兵士たちを忠実に再現しているところも見どころの一つです。輸送ヘリのドア・ガンナーがそれをよく表しています。「逃げる奴はベトコンだ、逃げない奴はよく訓練されたベトコンだ!」や、ジョーカーの「よく女子供が殺せるな」という質問に「簡単さ、動きがのろいからな」と答え、「ホント、戦争は地獄だぜ!」と言い放つセリフは忘れられません。

 

あと、ベトナムではよくあるジャングルでの戦闘が無く、コンクリ―ト廃墟での戦闘が主なのも新鮮で(まぁ、これは飛行機嫌いな監督のせいなんですけどね(笑))、主人公のジョーカーがメガネ男子ってところも戦争映画では珍しいタイプでしたね。メガネキャラは衛生兵役が多いイメージだったので意外だなーと思いながら観ていました。ラストシーンで、レンズが炎の光で反射して眼が映らないシーンがあるのですが、それを観たときやっとメガネで正解なんだと思いました。完璧主義なキューブリックの考えることはすごいですね、流石です。

 

そして、最後に流れる曲が「ミッキーマウスマーチ」とザ・ローリング・ストーンズの「黒くぬれ!」なのですが、こんなに陰鬱で悲壮感漂うミッキーマウスマーチ聞いたことありません(笑)。不気味でしたね、ザワザワする感じ。例えると、ミサイル発射のJアラートが鳴った時と同じザワザワ感がありました。歩いているだけでも死ぬかもしれないんだという恐怖や人を殺してしまった自分への恐怖、今後普通に今まで通り暮らしていけるのかという不安感など複雑な感情が沸き上がります。エンドロールで流れる「黒くぬれ!」のあのシタールの音色とミック・ジャガーのダウナーな始まりから堰を切ったようなシャウトへ流れる様は、この作品のようでがっちりとマッチしていました。なので、「黒くぬれ!」を聞くと何とも言えない複雑な感情でいつも胸が重くなります。「地獄の黙示録」のエンドロールがザ・ドアーズの「THE END」だったのを受けてのオマージュ?だったのでは?との噂もありますね。

 

70年代後半から80年代はベトナム戦争が題材の作品が多く発表されており、この作品の他にも「プラトーン」や「地獄の黙示録」「グッドモーニングベトナム」「ハンバーガヒル」「キリングフィールド」など沢山公開されていますが、戦争映画だったら何を勧めるか?と問われると私は迷いなくこの作品を勧めます。キューブリック節がさく裂‼という作風ではないので、キューブリックを堪能したいという人にはちょっと違うかな?と思いますが、戦争映画が観たいと思っている人にはお勧めです。

 

是非是非!