ガンモ

 

1997年アメリカで公開された作品です。

 

ガンモ [DVD]

 

ざっくしあらすじ

舞台はオハイオ州ジィーニャ。竜巻が過ぎ去り、町はズタボロ状態。猫の肉を肉屋に売り小銭を稼いだりしているソロモンとタムラーを軸に、町に暮らす人々の不精な日々を見せつけられます。

 

監督は「KIDS」「ミスター・ロンリー」などのハーモニー・コリン。この作品が初監督作品で、自身も小人男性にからむ役で出演しています。

キャストは、ソロモン役にジェイコブ・レイノルズ、タムラー役にニック・サットン、バニーボーイ役にジェイコブ・シーウェル、トッド役にクロエ・ゼヴェニー。この作品でクロエは衣装も担当しています。

 

ストーリーなのですが、全くないと言ってよいほど何もないので「どんな映画?」と尋ねられても何と答えたらよいか返答に困る映画です。ただ、ふとした瞬間のワンシーンがとても絵になる作品なので、不思議なオシャレ感が漂っています。

 

バニーボーイがハンサムで可愛らしいのですが、特にセリフというセリフが無く、只々男の子が一人でダラダラ遊んでいるだけのキャラクターですが、インパクトの強いビジュアルなので記憶には残ります。ですが、特に必要なキャラクターかと問われるとそうでもないようなキャラクターです。他の登場人物全てに言えるのですが、この作品に必要なキャラクターはいるようでいないのです。

 

メッセージ性などは全くもってなく、だらしない貧困層の白人たちのやる気のない生活風景をダラダラと見せつけられます。たぶん、なんのセンスも持ち合わせていない監督がメガホンを取っていたら本当にただのホームビデオになっていると思うのですが、ホームビデオにまで成り下がらないのは、ハーモニーの手腕なのでしょうね。

 

意味が分からないシーンばかりなのですが、強烈なシーンは数多くありました。特に、ソロモンの入浴シーンは衝撃の何物でもありませんでした。まず、入浴って身体を清める為にするものだと思うのですが、ソロモンの浸かっているバスタブの湯がドブのように不潔な色をしているのです。緑?のような謎めいた色のバスタブに浸かりながら、母が作ってくれた見るからにマズそうなミートソースパスタと固めのネチャネチャしてそうなチョコレートバーを食べているシーンは今でも忘れられません。普通であれば、気に留めるであろう部分も何事もなかったかのように流してしまうところは貧困層にありがちではありますが、なかなか強烈でした(;´Д`)

 

びっくりするほど内容もなく、メッセージ性もない作品なので、ハッキリ言って面白くはないです。(この作品のファンの方スミマセン、素直な一個人の感想です(-_-;))ですが、この作品には強烈なシーンと謎のおしゃれ感が漂っており、どのシーンをキャプチャーしても絵になります。ブランドとコラボしてヴォーグの中に広告としてワンシーンを使用されていても不自然ではない感じです。なので、この作品のようにアート的な映像作品を作りたいと考えている方にとってはお手本のような映画ではないでしょうか。

 

バベットの晩餐会

 

1987年デンマークで公開された作品です。

 

バベットの晩餐会 [DVD]

 

ざっくしあらすじ

19世紀後半、晴れている日なんてないのでは?と思うほど常に曇り空が広がる小さな漁村に、牧師だった父の遺志を継ぎひっそりと慎ましく暮らしている美しい2人の姉妹がいました。そんな二人の元に、フランスから亡命してきたバベットと名乗る女性がメイドとしてやってきます。ある日、バベットがなんとなく購入していた宝くじが見事大当たり!思いもよらぬ大金を手にしたバベットは、そのお金で晩餐会の料理を作ることを計画します。

 

監督はガブリエル・アクセルデンマークのロイヤル・デニッシュ・シアターで演技を学んでいたようなので、最初は役者を目指していたようですがその後は脚本・監督を務めるようになります。2014年にお亡くなりになっていますが95歳と大往生でした。

主演のバベット役には、ステファーヌ・オードラン。1968年「女鹿」ではベルリン国際映画祭銀熊賞、1972年「ブルジョワジーの秘かな愉しみ」では英国アカデミー賞主演女優賞を受賞するなど、とても実力のある方でしたが2018年に85歳でお亡くなりになっています。

 

淡々と静かにストーリーが進み、大きな出来事としては宝くじが当選するということぐらいなのですが、小さな村に住む人々の小さなコミュニティーでの小さな争いや嫉妬などがチラチラうかがえるところがなんとも可笑しくて可愛らしくて面白いので、振り返ってみれば淡々としていたなぁと思うのですが、観ている最中はあまりそのような感覚はありませんでした。

 

主人公のバベットはパリの動乱で家族を失ってしまうという悲しい過去があるのですが、彼女は悲しみをあからさまに表に出すことはありません。むしろ、明るすぎず暗すぎず、ちょうどよい人柄で他人に好感を持たせることができる女性です。しかも、パリでは優秀なシェフでした。あの時代に、男社会でも埋もれることなく仕事ができるほどの女性なので、頭も良かったのでしょうね。ただ、この作品はそういったハリウッドなどでクローズアップされがちな部分には全く焦点を当てません。さらっと流してしまうのですが、そこがなんだかおしゃれですよねぇ。

 

あと、晩餐会だけあって料理も素晴らしく美味しそうなものばかりでしたね。普段姉妹が食べているものといえば、パンと魚をすり潰し、ドロドロにしたまるで泥のようなおかゆ。牧師であった父の影響で禁欲的な生活をしている2人の食生活はこのおかゆがメインです。村の人々も慎ましい食生活だったのでしょう、バベットが用意した食材の数々を見て恐れ慄いてしまいます。私も活きのいいウミガメを見たらちょっと引いてしまいます(笑)。

 

ですが、シェフという人は本当に凄いですよね。あのウミガメを琥珀のように美しいスープに変身させてしまうのですから、そりゃあたまげますわ。日本ではパンケーキといえば甘いスイーツとしての立ち位置が主ですが、この作品では小さなパンケーキの上にキャビアサワークリームを乗せたものが登場していました。メインとして出されていたのも日本ではあまり馴染みのないウズラとトリュフのパイ。どこからナイフを入れるのが正解のなのだろう?と悩んでしまうようなフォルムでしたが、どれも美味しそうなものばかりでした。

 

あと、この作品の中で一番食べてみたい!と思ったのが、ラム酒のサヴァランです!クグロフ型のサヴァランの中心部分にラム酒のシロップかな?をたーっぷりと注いで食べるのですが、なんともまぁ美味しそうなこと!普段ケーキ屋さんでもあまりお目にかかれないサヴァランなので、この作品でこんな素晴らしいサヴァランを見たら無性に食べたくなって仕方がありませんでした(;´Д`)

 

最後に、大金を手にしたバベットが自分たちの元を離れてしまうことを寂しく思う姉妹に、お金は全て晩餐会で使い果たし、ずっと姉妹に従えることを告げます。私はこのシーンを観て不思議な達成感を感じられました。晩餐会が終わったあとの村人たちの幸せそうな笑顔と、独り一服をするバベットの姿が尚更達成感を感じさせたのだと思うのですが、普段の生活でも料理を作り、食べた後は「やり切ったぞ!」といつも思います。「生きることは食べること」それを再確認させてくれる作品でもあります。

 

作るのも、食べるのも全てが億劫になり心が荒んでいる時に是非観てほしいと思います。見た後には「ちょっと何か作ってみようかな?」なんて気持ちになっているかもしれませんよ?

 

是非是非!

 

 

ボーダーライン

 

2015年に公開された作品です。

 

ボーダーライン(字幕版)

 

ざっくしあらすじ

誘拐事件の捜査がきっかけでFBI捜査官のケイトは、エルパソに身を置いている麻薬カルテルの親玉の捜査に参加することになります。エルパソでは違法な捜査が当たり前のように行われており、ケイトは面食らってしまいます。特にルール無用で作戦を進めているのが所属不明のコロンビア人、アレハンドロ。アレハンドロは高い戦闘スキルや直感が冴えており、頭の回転も速く、FBI捜査官であるケイトの権限までをも上手く利用します。そんな違法な捜査法を受け入れることのできないケイトは善悪の区別が分からなくなってゆきます。

 

監督は「プリズナーズ」「メッセージ」「ブレードランナー2049」などのドゥニ・ヴィルヌーヴ。今作ではリアルなアメリカとメキシコの麻薬戦争を描いています。

メインキャストは、何の説明もなく地獄のようなメキシコへ放り出されたバツイチFBI捜査官ケイト役に、「プラダを着た悪魔」「オール・ユー・ニード・イズ・キル」「メリーポピンズ・リーターンズ」のエミリー・ブラント

静かなる正体不明のコロンビア人アレハンドロ役に、「ユージュアル・サスペクツ」「トラフィック」「チェ」などの、ベニチオ・デル・トロが出演しています。

 

あまりメキシコという国を知らなかったので、作品を観始めたときはケイトと同じく面食いましたね。治安のよい国ではないということは知ってはいましたが、ここまでとは…。何かの広告のように死体がぶら下がっている国って一体どうなっているのだ?映画だから?と思っていましたが、テレビ番組で丁度メキシコ麻薬カルテルの取材が放送されているのを観たら映画のシーンと全く同じ風景だったので、メキシコではこれが平常運転なんだと確信しました。

 

それにしても、こういう犯罪モノの作品を観ると警察の汚いやり口がこれでもかっ!と見せられるので何も信用できなくなりますよね。カルテルも警察も大して変わらんし、どっちも怖いし(;´Д`)

 

怖いといえば、トロさんの眼つきが凄かったですね。ゴルゴも怯むんじゃないかってぐらいの殺気でした。平気で淡々とむごいことを行う感じがもう、たまらんですな。エミリーの男勝りで気の強い感じもピッタリでしたね。顔つきだとは思うのですが、優しい女性の役より、気の強い冷たい感じの役が彼女には合っていますよね。

 

一応、R15指定の作品なので、どぎつい描写も多くあるためグロ耐性がない人には不向きかなとは思います。でも、よくあるアクションやそういったどぎつい描写だけに頼っている作品ではなく、しっかりしたストーリーや技量の高い俳優たちが演じているので、重厚でリアルなクライムアクションものに仕上がっている印象を受けました。

 

続編もあるようですが、予告を観るかぎりちょっとがっかりと言いますか、あれ?こんな感じだったっけ?なんか違う…、これじゃあブルース・ウィリスが出るような作品と変わらないんじゃ…と思ってしまいました。予告だけなのでなんとも言えないですが、今作が整い過ぎていたのでハードルがどうしても上がってしまいますね。でも、トロさんは続編でもとてもカッコよかったのでその点については安心です!

 

是非是非!

マザー!

 

2017年アメリカで公開された作品です。

 

マザー! (字幕版)

 

ざっくしあらすじ

周りに何もないド田舎の大きな一軒家に歳の離れた夫婦が住んでいました。夫は詩人でスランプ気味、妻はそんな夫を献身的に支えながら穏やかに暮らしていました。そんなある日、1人の男が夫婦の元に訪れます。妻はその男を怪しく思いますが、夫は快く迎え入れます。その男を向かい入れてから、穏やかな夫婦の生活は一変し、様々な来客が訪れ夫婦の生活を乱してゆきます。

 

監督は「レスラー」「ブラックスワン」などのダーレン・アロノフスキー。今作で主演を務めたジェニファー・ローレンスとは恋仲になりました。

 

出演は、夫のせいで家の中がめちゃくちゃ!誰が後片付けすると思ってんの⁈な妻役に「ハンガーゲーム」「世界にひとつのプレイブック」「レッドスパロウ」のジェニファー・ローレンス

スランプ気味…、だれかと話したい!刺激が欲しい!な夫役に「ノーカントリー」「007 スカイフォール」のハビエル・バルデム。顔の迫力も凄いですが、名前のインパクトも申し分ないですよね、呪文みたいだ(笑)。

そのほか、エド・ハリスミシェル・ファイファーが脇を固めています。

 

ジェニファー・ローレンスが主演でしかもスリラー系という情報のみで観たのですが、正直ちょっと話についていけませんでした(;'∀')

 

現代劇として観ていたので、中盤から「あ、なんか聖書?っぽいかなぁ~?」とはうっすらと思ったのですが、その考えを遮るようなハビエルの無神経な行動に腹が立って仕方がありませんでした。突然の来客を迎え入れて宿泊させたり、妻に何の一言もなくパーティー開いちゃうし、その客たちに家の中を壊されちゃうわでもうめちゃくちゃです。キーッ(`~´)!!普通なら、しかも自己主張がはっきりしているアメリカ人女性なら「もう、やってらんないわよ!出てくわ!」と叫んで家を出ていきそうなんですが、全く出ていくそぶりを見せないんです。

 

うむ、全く理解できない。お得意の「映画だから!(^_-)-☆」な割り切り方で強引に受け入れようと試みましたが、ちょっと無理でした(笑)。鑑賞後に特典として収録されていた監督の解説でやはり旧約聖書がベースということを知り、ようやく理解できなかった部分もかみ砕くことができました。聖書をベースに現代風にアレンジされているのであれば、何故?な部分も「聖書の世界だから」で消化することができました。

 

あと、作品の評価もチェックしてみましたが驚くほどの悪評でしたね。まぁ、これは仕方がない評価だと思うのですが、結構な方が「女性軽視」「女性差別」とのコメントをされていたのを見て「言われてみればそうかも」とやっと気づくぐらい鈍く、鑑賞中は全くそのような考えには至らなかったので、少し感心してしまいました。

 

でも、なんでもかんでも軽視だ!差別だ!と叫んでよいものか。少し違和感があります。確かにこの作品はジェニファー扮する妻を虐めすぎた感は否めないのですが、旧約聖書をベースとし現代劇に置き換えアレンジした作品、ということをあらかじめ観客に伝えてから物語を見せたらまた違った意見や考えが出てきたと思いますし、「夫婦」という「女」と「男」でキャラクターを動かしてしまったのが非難の的になりやすい要素だったかな?とも思いました。

 

ですが、このように宗教的な要素があるテーマはたぶん縛りや表現の仕方がとても難しいと思われますし、それに加えて非難されれるかもしれない要素を全て取り除いて描こうとすれば、かなり薄味のパンチの効いていない作品が出来上がってしまうことでしょう。結果的に、私はこの作品かなりパンチの効いた作品だと思いました。お国柄、旧約聖書などのものにはかなり疎いので、ストーリーや細かなポイントなど理解できない部分も多く、ストーリーの進み具合も強引すぎてついていくことができませんでしたが、記憶にはしっかり残りました。

 

途中で趣味の悪い演出がみられ、あまりいい気分にはなれませんがこれも旧約聖書がベースということを鑑みると、凄く気持ちの悪い演出ですが受け入れられなくもないかなと思います。「だからといって、こんな残酷な演出にしなくてもいいじゃないか!!」とお叱りの声も聞こえてきそうですが、それを言ったらスプラッター映画にもしっかり非難の声を上げるべきだと私は思います。

 

凄く面白いから絶対観てね!とは口が裂けても言えないですが、かなり攻めた作品で、悪評を恐れず果敢にクリエイトした心意気や熱意や努力がみられる映画です。そういった部分はとても素晴らしいことだと思いますし、認めてあげなければいけないところだと思います。批判を恐れて受け身な作品しか作らない・求めない人たちこそ少し改めるべきだと思います。良い部分もあれば、悪い部分もあります、平等な目をお持ちなら「良い部分」にもしっかり目を向けてほしいものです。

バティニョールおじさん

2002年フランスで公開された作品です。

 

バティニョールおじさん [DVD]

 

ざっくしあらすじ

舞台は1942年のフランス・パリ。街の一角にある肉屋の店主バティニョールが主人公。お人よしな彼の周りは、計算高い妻やナチス・ドイツ支持者の娘婿ピエール=ジャンなど、癖の強い人間に囲まれて生活していました。そんなある日ピエール=ジャンが隣に住むユダヤ人一家バースタイン家の存在をドイツ軍に密告します。思いもよらず摘発に協力したことになってしまったバティニョール一家は、バースタイン家が所有していたアパートなどの財産を譲り受けることになります。ある晩、ドイツ軍のレセプションを開催することになったため、バティニョールは客人を迎え入れるため玄関を開けます。するとそこには、上手く逃げたしたバースタイン家の息子シモンが立っていました。慌てたバティニョールはシモンをかくまいます。シモンは残りの親類と落ち合うため、バースタインが所有していたアパートへ戻ってきたというのです。大ごとにならないようバティニョールは必死にシモンをかくまいますが、バレるのも時間の問題です。そのため、合流したシモンの従妹サラとギラを連れてスイスへ亡命させようと決心します。

 

「タンデム」「パリの天使たち」「コーラス」などで知られるジェラール・ジュニョが監督兼主演されています。劇団「スプランティド」では脚本家としても活躍していたようです。この劇団フランスでは結構有名なんですね、初めて知りました。今作では親しみやすくいかにも「フランスのおっちゃん」って風貌がアニメキャラクターのようでとても愛らしかったです。

 

まず、クスりとしたのがバティニョールおじさんはお肉屋さんという設定です。ユダヤ人の子供を助けるのにお肉って!なんだかへんてこりんですよね。(ユダヤ教では細かな食事規定があり、豚肉やエビ・カキ・イカ・タコなどが食べられません。牛肉はOKのようなのですが、血が滴るビフテキなどはダメみたいです。)内容としては結構シリアスになりがちな題材なのですが、このようにユーモアやコメディ要素を各所に盛り込んでいるので比較的明るい気分で観ることができます。

 

バティニョールおじさんは小さな頃から働きづめで生活してきたため、学があまりありません。そのためインテリな子供たちと立場が逆転したりするのですが、この子供たちがなんとも我がままで叱り飛ばしたくなります(笑)。元は医者の一族だったため、戦争前までは何不自由なく暮らしてきた様がありありと伝わります。でも、監督はあえて可愛らしい守りたくなるような子供像を描きたくなかったようなことをインタビューで話していました。なるほど、計算だったのですね。

 

雰囲気としては「ライフイズビューティフル」を彷彿とさせますが、今作品の方がずっとリアルに当時の現状を描いていると思います。衣装だったり、セットなんかも結構細密に作りこまれていました。

 

牧歌的ではあるのですが、流されやすい一人の中年男性が自分の意志で子供たちを亡命させようと奮闘し、頼もしくなっていく姿はまるで少年が大人になるようなサクセスストーリーを観ているようでした。前半はあんなに頼りなかったのに、後半は頼もしい子供たちのヒーローになっていく姿はとても心が温かくなります。

 

ユダヤ人の迫害を題材にした作品は暗いものが多いのですが、この作品はちょうどよい濃さで描かれている印象を受けます。笑いあり、涙あり、ドタバタがありのまさに『映画』といった作品です。(ちょっと「男はつらいよ」風になってますが、内容は全く違いますよ!)ラストもどちらかというとハッピーエンドなので、ほっこりした気持ちで席を立ちたいときにお勧めです。

 

是非是非!

 

 

暗くなるまで待って

1967年アメリカで公開された作品です。

 

暗くなるまで待って [DVD] [DVD] (2011) オードリー・ヘップバーン; アラン・アーキン; リチャード・クレンナ; サマンサ・ジョーンズ

 

ざっくしあらすじ

写真家のサムは降り立った空港で、見知らぬ女性から一体の人形を預けられます。不思議に思いながらも盲目の妻スージーの待つアパートへ持ち帰ります。しかし、その人形の中にはヘロインが入っており、その女はそのヘロイン入りの人形を持って逃亡している最中でした。そのヘロインを追っていた3人組の男、ハリー、マイク、カリーノはサムのアパートを突き止めます。3人は妻スージーにバレないように人形の在りかを聞き出しますが、スージーも人形のことは全く分かりませんでした。何としてでもヘロインを入手したい3人は、何も見えないスージーを恐怖へと陥れます。

 

監督は、「007ドクター・ノオ」「007ロシアより愛をこめて」「007サンダーボール作戦」などのテレンス・ヤング。この作品は007シリーズが一段落したあとに製作されたものです。ちなみに、第2次世界大戦中に負傷したところをボランティア看護師だった主演のオードリーに介護されています。

 

キャストは、不運な事故で全盲になってしまったスージー役に「ローマの休日」「ティファニーで朝食を」「シャレード」などのオードリー・ヘプバーン。今作ではアカデミー賞最優秀女優賞にノミネートされています。

知らない人からよく分からないものを貰っちゃダメだよー!な写真家の夫サム役に「ホット・ショット」などに出ているエフレム・ジンバリスト・ジュニア。「ヒッチコック劇場」や「サンセット77」などTV映画で多く活躍していた俳優です。

悪役3人組のハリー役に「リトル・ミス・サンシャイン」でアカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞したアラン・アーキン。マイク役にリチャード・クレンナ、カリーノ役にジャック・ウェストンがキャスティングされています。

 

1967年というとオードリーが一旦映画から距離を置いた時期でもあり、離婚直前の時期でもありました。そのためか、スリムな体系がよりスリムになっていた印象があります。ですが、スージーという役柄もあり、細すぎる体系も違和感なく受け入れることができます。同じ年に公開された「いつも二人で」ではとても楽しそうにしていたオードリーですが、この作品では正反対の恐怖に慄く彼女を観ることができます。

 

シャレード」もおしゃれで素敵なサスペンス作品でしたが、こちらの作品の方が本格的なサスペンススリラーに仕上がっています。全盲という設定がまず良いですよね。「見える恐怖」も怖いっちゃ怖いですが、「見えない恐怖」って相当だと思います。このスージーのように事故で突然全盲になってしまうというのも普通に考えたらかなり怖いですよね。普段何気なく見ていた日常が突然見えなくなるって恐ろしいです。それに加えて、このスージーは凶悪犯に襲われるんですからたまったもんじゃないです。

 

そして、なんといっても良くできてるなーと感心したのがラストシーンです。若干ネタバレになるので申し訳ないですが、書きます。スージーは犯人と渡り合う際に自分と同じ条件に状況を持っていくんです。その状況がタイトルにもある通り「暗闇」です。全盲であるスージーは暗闇の中で生きていて、普通の状況じゃ圧倒的に不利なんですね。なのでスージーは自分と同じ状況にするために、部屋の中を真っ暗にして犯人と戦うのですが、それがまぁ怖い。暗くて何も見えないって映画としてどうなの?とお思いの方もいらっしゃると思うのですが、心配いりません。ちゃんと怖いですよ(笑)。一瞬だけマッチの光で部屋の状況が分かるのですが、そのちょっと明るくなった瞬間がドキドキします。こう、犯人が近づいてきているのがチラチラ見えるのがもう本当に怖いですねぇ。特に大げさな視覚効果や特殊技術も使用していないのにこの恐怖感を描けるのは流石だなぁと思いました。

 

オードリーといえば「ローマの休日」や「マイ・フェア・レディ」あたりが有名で、この作品はあまり目立っているものではないのですが、私的には彼女の作品の中で1番面白く、素晴らしい演技をしている作品だと思っています。ストーリー自体は少し荒っぽいですが(知らぬ女性から人形貰って帰ってきちゃうとか)、そこに目をつぶれば大いに楽しめる作品になっていますので、見かけたら是非お手に取ってみてください。

 

是非是非!

 

 

サスペリアPART2/紅い深淵

1975年イタリアで公開された作品です。

 

サスペリア PART2 完全版(字幕版)

 

ざっくしあらすじ

ある講演会で霊感のあるヘルガという女性が聴衆の持ち物などを当てていた時、「この会場内に殺人者がいる」と言って突然ヘルガが苦しみだします。「またこの殺人者は人を殺します」との予言も叫び場内は騒然としていました。一方別の場所ではピアニストのマークがリハーサルを終えた後に友人のカルロと出会い談笑していました。ふと視界に入ったアパートの窓越しにヘルガが殺害される場面を目撃。すぐさまヘルガの部屋へ向かいますが、既にこと切れた後でした。その後、警察に事情を話しているところを新聞記者ジャンナに写真を撮られ、翌日の新聞にマークの顔が載ってしまいます。犯人に顔を知られたマークは自分に危害が加えられる前に事件の真相を解明しようと動き出します。

 

監督は「サスペリア」「フェノミナ」などでおなじみのダリオ・アルジェント。今作品は、「サスペリア」より前に制作されたもので、ストーリーも「サスペリア」とは全く関係のないものなのですが、日本の配給元が「サスペリアPART2」と銘打ったほうが伸びると判断したため、あたかも続編のようなタイトルにしたとのことです。当時はなんでもアリだったんですね(笑)。

 

キャストは、殺人現場を目撃しちゃう不運なピアニストマーク役に「グラディエーター」「スパイ・ゲーム」「ギャング・オブ・ニューヨーク」などのデヴィッド・ヘミングス。俳優の他に監督業も行っており、1973年には「別れのクリスマス」という作品でベルリン国際映画祭の監督賞を受賞しています。

棒のようにスリムな新聞記者ジャンナ役に「インフェルノ」「フェノミナ」などのダリア・ニコロディ。ダリオ・アルジェントとは公私にわたるパートナーで、娘のアーシア・アルジェントも女優をやっています。脚本家でもある彼女は、「サスペリア」を企画し脚本にも参加している多彩な方です。

 

有名なホラー映画を挙げると必ずと言っていいほど「サスペリア」もあがってきますよね。確かに「サスペリア」も素晴らしい作品でしたし、つい最近リメイクされて日本でも公開されていましたよね。今作品は「サスペリア」とは違いホラーでもオカルトでもなく、サイコサスペンスのジャンルではあるのですが、ホラーといっても過言ではない怖さがありました。

 

まず、あの操り人形の気持ち悪さったらないです。「SAW」でも人形が出てきますけど、私としては「サスペリアPART2」の人形の方が怖かったですね。表情はチャッキーっぽいんですけど、チャッキーのような滑らかな動きはないです。でも、不気味です。私の中でこの作品の一番のツボです。

 

音楽はお馴染みゴブリンが手掛けていますが、この作中に流れる音楽もなかなか秀逸です。ゴブリン特有のあの「ミョーン!」とした感じのメロディーが胸をざわつかせます。一番初めのシーンで流れる子供が唄っている曲も、なんだか気持ち悪いんですよねぇ。「戦争のはらわた」でも一番初めに子どもが歌う童謡の「ちょうちょ」が流れていましたが、あの気持ち悪さに近いものがあります。

 

あと、個人的に好きなのは、殺人シーンが派手なとこです。最初に殺されちゃうオルガは、おっぱい丸出しでメッタ刺しにされてしまうのですが、なんだかこういうシーンは時代を感じます。あの時代って意味もなくおっぱい出しちゃうじゃないですか?「なぜ(。´・ω・)?」と思いつつもいいもの見たなという感情も同時に沸き上がるので人間って不思議ですよね。サービスってことなんですかね?

 

一応、サスペンスものなので推理的な部分もちゃんとあり、ハラハラドキドキのシーンもしっかりあるので、ダレることはなかったです。正直「サスペリア」のほうが私はダレました。なので、この作品のほうがドッキリ度はかなり高いと思います。謎が明かされていく時のシーンは「ワッ(゚Д゚)!」となりましたしね。

 

表現が難しいのですが、アメリカにはないイタリア特有の暑苦しさというか濃さが観られる作品だと思います。映像、キャスト、女優の太めのアイライン。ハリウッドにはあまりない表現も面白いですし、残酷な殺人シーンなどヒッチコックとはまた違ったサイコサスペンスに仕上がっているのも素晴らしいです。あまりレンタルで見かけることがない作品ではあるのですが、もし見かけた際は是非お手に取ってもらいたいです。

 

是非是非!